――戦略的に進める過去問題活用法
中学受験がいよいよ佳境を迎えるこの時期、多くのご家庭では第一志望校の決定や併願校の検討、受験順序の最終調整など、さまざまな課題に頭を悩ませておられることと思います。
その中で、学習の次のステップとして本格化するのが、受験校の過去問題(過去問)演習です。
模試の結果によって、ある程度の学力の目安は把握できます。しかし、模試はあくまで“模擬の問題”であり、実際に受験する学校の出題形式や思考の方向性とは異なります。第一志望校や併願校の入試問題に直接触れ、自身の合格可能性を分析することが、この時期に求められる最も重要な課題のひとつです。
入試問題は千差万別―偏差値だけでは見えない適性
中学受験において、学校ごとの入試問題は形式・出題傾向・思考力の比重がそれぞれ異なります。近年では、同一校内でも複数回受験が設定され、回によって出題傾向が変わることも少なくありません。
偏差値は合格の目安として便利ですが、同じ偏差値の学校でも、受験生個人にとって難易度や相性が異なることがあります。
たとえば、偏差値が同程度のA中学校の算数は得意だが、B中学校の算数は不得意――といったケースもありえます。この場合、模試の結果だけでは見えない“学校との相性”が、実際の合格の可否を左右します。
したがって、この時期の過去問演習は、単なる「実戦練習」ではなく、合格に必要な力を見極めるための戦略的ツールとして位置づけることが重要です。
過去問演習のステップと実践ポイント
1. 段階を踏んで進める
最初からチャレンジ校ばかりに取り組むと、得点が伸びず、受験生のモチベーション低下や自己肯定感の低下を招きます。
まずはおさえ校(練習校)で問題に慣れ、次に実力相応校、最後にチャレンジ校へと段階的に進めることが望ましいです。段階的な成功体験が、受験生の心理的安定と本番の得点力向上につながります。
2. 1回目は「問題研究」
初回は時間を計りながら解くことが基本ですが、ここでの目的は点数ではなく問題傾向の把握です。
- 算数:どの単元・形式の問題が出やすいか
- 国語:文章の種類、記述量、設問の深さ
- 理科・社会:出題テーマの傾向や応用問題の出方 など
時間配分や解法戦略の検討も、この段階で体験しておくと後の演習に活かせます。
3. 2回目は「再現力と得点力の確認」
1回目で把握した傾向をどれだけ再現できるかを確認します。
失点の原因を以下のように分析し、改善策を立てます:
- 知識不足 → 学習範囲の補強
- 読み取りミス → 設問精読の訓練
- 時間配分の誤り → 解答順序やペース管理の工夫 など
採点は必ず大人が行い、特に記述問題の評価は塾の先生にも相談して正確にチェックしてください。
4. 親の役割は「課題の可視化」
保護者は点数の上下に一喜一憂せず、課題を明確にして改善策につなげるサポートを行うことが重要です。
算数の文章題で設問条件の読み落としが目立つ場合は、設問精読を重点的に練習させる。
国語の記述が伸びない場合は、根拠を意識した答え方の指導を補助する。
さらに、得点は教科別だけでなく総合得点で管理し、苦手科目に偏りすぎないよう全体を見通すことが重要です。けっして「木をて森を見ず」とならないようにしなくてはなりません。
過去問演習は「合格への指導書」
過去問は、単なる問題集ではなく合格力を導く指導書です。焦らず、丁寧に分析・演習を重ねることで、残りの時間を戦略的に使い切ることができます。
受験生自身が得点力だけでなく思考力・解答戦略・時間配分を理解することで、入試本番に向けて確かな自信と力が身につきます。